千葉県よろず活動レポートVol.13
2025年度 千葉県中小企業経営状況アンケート調査報告
2025年度 千葉県中小企業経営状況アンケート調査報告
千葉県よろず支援拠点 2026年4月発行
■ 調査の目的と概要
千葉県よろず支援拠点では、物価高・人件費上昇が続く厳しい外部環境の下、県内事業者が現在どのような経営状況に置かれ、何を必要としているかを把握することを目的として、2025年11月に県内中小事業者を対象とした経営状況アンケートを実施しました。
今年度の有効回答数は198件。前年度(561件)と比較すると大幅な減少となりましたが、これは回答方法を前年度の郵送・WEB併用からWEB回答のみに変更したことが主因とみられます。なお、回答事業者様の業種・規模・地域の分布に大きな偏りはなかったことから、傾向を把握する調査としての有効性は一定維持されているものと判断しています。
■ 大枠の状況:売上は改善傾向、ただしコスト増が重しに
売上が増加した事業者様は44.4%(88社)であり、前年(39.9%)から4.5ポイントの改善が確認できました。売上横ばいが28.3%(56社)、減少が27.3%(54社)と、全体としては需要回復の流れが継続していることが示されました。
一方、仕入価格が上昇したと回答した事業者様は72.2%(143社)に上り、前年(72.5%)からほぼ横ばい、高止まりが続いていることが明らかになりました。そして、販売価格への転嫁が実現できた事業者様は37.4%(74社)。つまり、仕入価格が上昇した事業者様のうち約半数は価格転嫁が十分に行えていないということになります。これは売上高の増加が利益改善に直結していない可能性、つまりコスト増を吸収しきれない構造的な問題が引き続き残っていることを示唆しています。
これを含めさらに実態を掘り下げるため、次に業種・売上動向・事業規模という3つの軸から確認を行いました。
■ 傾向①:業種が違えば課題の中身も支援策も異なる
業種別に分解すると、経営状況の差異が明確に現れました。
飲食業の売上増加率は50.0%、サービス業は46.0%と、いずれも全体平均(44.4%)を上回りました。BtoC業種全般において個人消費の回復が追い風となっているとみられますが、千葉県においては成田空港を核とするインバウンド需要や東京経済圏との近接性が寄与している可能性もあります。ただし因果関係の特定には至っておらず、引き続き継続的な把握が必要です。
一方、製造業の売上増加率は27.3%と全体平均を約17ポイント下回り、業種別で最も低い水準でした。この低迷の背景を掘り下げると、単なる需要不足や販路の問題ではなく、人材不足・技術承継の停滞といった内部要因が色濃く関わっていることが確認できました。製造業では人材不足を感じている事業者様が50.0%に上るとともに、BtoB取引構造に起因する価格転嫁の困難さも重なり、売上の伸び悩みとコスト圧迫が同時進行している状況です。個別のコメントでは「技術継承が進まなければ将来的に物が作れなくなる」「人材不足は限界に達しており、公的機関の実効性ある対策が必要」といった切なる声も寄せられました。
これらの声が示すのは、製造業の課題が「売上をどう増やすか」という次元にとどまらないということです。人が採れない・育たない・技術が継がれない——その結果として生産性が停滞し、売上の回復力が失われていく構造が見て取れます。製造業への支援においては、売上向上策にとどまらず、生産性の改善・向上を軸に置いた支援がより本質的な課題解決につながると考えられます。
■ 傾向②:売上が下がると、課題は連鎖して複雑化する
売上増加事業者様(88社)の平均課題数が2.7個であるのに対し、売上減少事業者様(54社)では3.1個に上りました。売上減少事業者様の87.0%が「売上・シェア拡大」を最優先課題として挙げており、次いで「資金調達(53.7%)」「新商品・サービス開発(44.4%)」「人材確保(40.7%)」と続きました。
売上減少事業者様の重点課題が「売上拡大」というのは当然の結果ですが、特筆すべきは、これらの課題が独立して発生しているのではなく、相互に連鎖していると考えられる点です。売上の落ち込みが資金繰りの悪化を招き、資金繰りの悪化が新たな投資や採用を困難にする——負の連鎖が生じやすい構造にあります。実際、売上減少事業者様の59.3%が資金繰りの悪化を経験しており、売上増加事業者様における同割合(12.5%)と比較すると、その差は顕著です。
課題が複合化した状態に置かれた事業者様では、自力での打開が困難になるケースも少なくありません。個別課題への点的な対応では不十分であり、課題連鎖の構造を踏まえた包括的な支援の視点が求められます。
■ 傾向③:事業規模により大きく変わる課題の優先順位
業種・売上動向に加えて、事業規模もまた課題の優先順位を大きく規定する要因であることが確認できました。
売上1億円未満の小規模事業者様※(129社)では「売上・シェア拡大(79.8%)」が最重要課題として挙げられ、「新商品・サービス開発(38.0%)」「資金調達(34.1%)」が続きました。この順位は、守りではなく攻めの姿勢を示している可能性があります。売上を拡大するために新たな商品・サービスの開発という積極策を志向し、その実現に必要な資金確保が課題として浮上している——そのような構造として読むことができます。となると、小規模事業者様に対しては単なる経営安定化にとどまらず、成長戦略の立案と実行を支える支援が有効と考えられます。
※本報告書における「小規模事業者」は、独自の分析区分として「年間売上高1億円未満」の事業者を指します。中小企業基本法上の定義(従業員数に基づく区分)とは異なる点にご留意ください。
一方、売上1億円以上の中規模以上事業者様(69社)では「人材確保・定着・育成(63.8%)」が最重要課題であり、「売上・シェア拡大(58.0%)」「資金調達(44.9%)」「価格転嫁(37.7%)」と続きました。売上基盤はある程度構築されているものの、人材の確保・定着と価格転嫁の実現が成長を左右する——規模ならではの課題構造です。
事業規模によって直面する課題の構造と優先順位は大きく異なります。売上1億円未満の小規模事業者様には、売上拡大から資金確保まで複合的に絡み合った課題に対し、戦略立案から実行までを一体的に支援する視点が求められます。一方、中規模以上の事業者様が最重要課題として挙げた「人材確保・定着・育成」は、中小企業のみならず社会全体で深刻化する問題であり、採用によるアプローチには構造的な限界があります。そこで求められるのが、限られた人員でいかに成果を出すか、という視点です。省力化・省人化による生産性向上は、人材採用の困難さを補う可能性を持つ取り組みとして注目されます。規模の差異を前提に、それぞれの課題構造に応じた支援設計が不可欠です。
■ 調査が示す課題と、よろずが果たすべき役割
ここまでの3つの傾向を総合すると、業種・売上動向・事業規模の3軸が複合する形で各事業者様の経営実態は成り立っていることが明らかになりました。画一的な支援では最も支援を必要としている事業者様に届かない可能性が高く、課題の構造そのものを踏まえた支援の設計が求められます。
こうした支援ニーズの高まりは、アンケートの数字にも表れています。今回の調査では、改めて経営相談を希望する旨の設問を設けたところ、回答事業者様の30.8%(61社)が「希望する」と回答しました。前年(23.0%)から7.8ポイントの増加であり、この数字はアンケートへの回答という行為のなかで、自ら能動的に手を挙げた事業者様の割合です。潜在的な相談ニーズはさらに広がっているとみられ、支援機関への期待の高まりを示す指標として重く受け止める必要があります。
千葉県よろず支援拠点は、このような現場のニーズに応えるため、2026年4月より新たに「生産性向上支援センター」を開設しました。同センターは、深刻化する人手不足・労働供給制約の下においても、中小企業・小規模事業者様が省力化等を通じて生産性を向上できるよう、複数回にわたる現場訪問型の伴走支援を行います。
今回明らかになった製造業の人材不足や業務の属人化は、まさに同センターが支援対象とする領域と合致します。また、価格転嫁の困難さについても、よろず支援拠点は価格転嫁サポート窓口としての機能を担っており、本調査で浮き彫りになった課題に直接応える体制が整っています。
本調査の結果は課題の所在を示すと同時に、よろず支援拠点が機動的に応じるための根拠ともなります。しかし、支援が必要な事業者様に確実に届けるためには、よろず単独での取り組みには限界があります。金融機関・商工会・商工会議所・引継ぎ支援センター・中小企業活性化協議会・各自治体(以下「地域連携機関様」)は日常的な接点を通じて事業者様の実態を把握しており、その情報とよろずの支援機能を組み合わせることで、課題が深刻化する前に適切な支援へとつなぐことが可能になります。以下に示す3つのアプローチは、こうした地域連携機関様との緊密な情報共有を前提として設計されており、事業者様の状況に応じて組み合わせながら実施することを想定しています。
①予防的支援(早期トリアージ) 地域連携機関様との情報共有を通じ、課題が複合化・深刻化する前の段階で事業者様の経営状態を早期に把握し、必要な支援へとつなぎます。売上が下落しはじめた段階での早期介入が、支援効果を大きく左右します。
②連携強化型支援(ワンストップ対応) 複合的な課題を抱える事業者様に対し、関係支援機関様と課題認識を共有した上で、事業者様が適切な専門家に確実につながれる体制を構築します。地域連携機関様との連携がその基盤となります。
③段階的伴走型支援(自走化促進) 一時的な課題解決にとどまらず、事業者様が自ら経営課題を発見し対応できる自走状態の実現を目指します。生産性向上支援センターによる現場訪問型の伴走支援がその中核を担います。
千葉県内の中小事業者様が直面する課題は単純ではなく、複合的です。よろず支援拠点は、この複合性を正面から受け止め、業種・規模・局面に応じた支援を継続的に提供することで、地域の中小事業者様の経営安定と成長に貢献してまいります。
本調査は2025年11月にWEB回答にて実施。対象:千葉県内中小企業・小規模事業者。有効回答:198件。調査・分析:千葉県よろず支援拠点






